春と秋には七草があります。
春の七草は、「せりなずな御形(ごぎょう)はこべら仏の座すずなすずしろこれぞ七草」と歌に詠まれています。春の七草は、1月7日におかゆに七草を入れて食べる風習があります。この七草は様々な薬効があるとされているため、無病息災を願って食べられています。
一方の秋の七草は、山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ、「萩(はぎ)の花尾花(おばな)葛花(くずはな)撫子(なでしこ)の花女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝顔の花」という歌からきています。ちなみに、ここでいうハギはヤマハギ、オバナはススキ、アサガオはキキョウのことを指しています。
この秋の七草は食用ではないため、現代の私達のくらしには、春の七草ほどなじみがないのかもしれません。また、この七草は見て楽しむものとはいえ、外見にも人目を引きつけるような派手さはありません。しかし、万葉集にみられる素朴さに通じるような魅力があります。
秋の七草はどれも、目立たずひっそりと慎ましやかに生きています。キクや、ヒガンバナのような鮮やかな花が秋に華やかさを添える一方、この小さくて可愛らしい花をつけるハギなどの七草だからこそ感じられる秋の風情もあるのではないでしょうか。植物が春に芽吹くまでの長い眠りに入る季節には、ぱっと咲く明るさより、けなげに咲く美しさに心を寄せたのかもしれません。
お天気豆知識(2025年09月10日(水))


秋を代表する草として選ばれた七草は、実際に万葉集がつくられた当時、その人気はどのようなものだったのでしょうか。
その目安として、それぞれの草について万葉集に詠まれた歌の数を調べてみました。結果は、ハギが圧倒的に多く、次いでオバナ、ナデシコという順番になりました。当時のハギは、花見がさかんに行われるほどの人気があり、その後の平安時代にはハギという漢字に、草かんむりの下に秋と書く、現代の「萩」という字が用いられるようになったことからも、秋の草の中でハギが大変な人気だったことが伺えます。
しかしながら、歌にほとんど詠まれることのなかったフジバカマなどと、大変な人気を博していたハギが、ともに秋を代表する草といわれているのには、少々人気に差がありすぎるようで、不思議に感じるという方はいませんか。
これには、秋の草を7種類選ばなければならなかった当時の事情が関係しているのかもしれません。当時の日本では、陰陽学(おんみょうがく)とよばれる古く中国から伝わった思想体系によって、7は尊い数字とされていました。そのため、7という数字にこだわっていたと考えられます。
春の七草には今でも、1月7日に7歳の子供が近隣の7軒を訪ねて七草がゆを7杯食べるという風習が九州や東北地方の一部にあり、7という数字に徹底的にこだわる姿勢がうかがえます。昔の人々の7という数への強いこだわりが、秋の七草の中に大きな人気の差を生んだのかもしれませんね。