寒さが増し初雪の便りが届くようになってきました。この時期になると、山形県米沢盆地では「雪迎え」と呼ばれる珍しい光景を目にすることがあります。
雪迎えとは、クモが糸を出して上昇気流を受け、空を飛ぶものです。快晴で風のない小春日和に見られ、いつも初雪の直前に見られるため、雪の前兆とされ、収穫や冬や冬ごもりの目安にされてきました。
クモが空を飛び交う姿を想像すると、あまり気持ちの良いものではないように思うかもしれませんが、雲一つない青空に銀色の糸がキラキラと揺らめきながら舞う姿は、実際はきれいなものです。
ヨーロッパでは糸がクモから離れて舞っているものをゴッサマー(Gossamer)と呼んでいますが、それがクモの糸だとわかる以前には、その美しさから聖母マリアの紡いだ糸だと信じられたこともあったようです。
ちなみに、中国ではこの雪迎えを「遊糸(ゆうし)」と呼び、日本でも古くはこの呼び名が使われており、古今和歌集などにも登場しています。
お天気豆知識(2025年11月16日(日))


雪迎えは、不思議と雪が降り始める直前の穏やかな日に見られます。なぜ雪迎えはこのような小春日和に見られるのでしょうか。
雪迎えのころは子グモが生まれてある程度成長し、ちょうど独り立ちを始める時期に当たります。晩秋から初冬にかけて現れる小春日和の日は、日射によって地面がよく暖められ、地面付近の空気も暖かくなります。
このとき、熱に弱いコモリグモなどの小さなクモは、地面付近の暑さからなんとかして逃げようと枯れ草や、くいなどに上ります。先端に到着すると、地面付近で発生した上昇気流を利用して、後ろ向きになって糸を伸ばしていきます。
糸は1メートル前後から5メートルを超えるものまであり、パラシュートの役目をするので、長ければ長いほど飛び上がりやすくなります。糸が十分な長さに達し上昇気流も強くなると、糸はピンと張って天を目指しやがてクモは飛び立つのです。
上昇気流に乗ってぐんぐん上がっていくと、そこには涼しい快適な世界が待っています。そして、その後は風まかせです。降り立ったところに仲間がいれば、子孫を増やし、仲間がいなければひとりぼっちで一生を終えます。

