葉の落ち尽くした冬、山のたたずまいはそれまでとうって変わって寂しげです。新緑もなく、紅葉の色づきもなく、ただ枯れた木々が立ち並ぶ姿は、生き物の気配が感じられないため躍動感が全くありません。
今、山々は四季の中で最も静かなシーズンを迎えているのです。こうした冬の山の様子を「山眠る」などと表現することがあります。
「山眠る」は、俳句の世界では冬の季語とされていて、精彩を欠いた冬山の様子を表しています。実際は、山には越冬している虫や動物たちは隠れていますし、スキー場がある山では、むしろ冬が一年で最も騒々しい季節にあたる所もあります。
しかし、本来、冬山は、春、夏と成長していた植物が気温の低下とともに生命活動を低下させ、次にくる春を、静かに待つ時期なのです。それは、あたかも私たち人間が、昼間の疲れをとって、元気に次の日を迎えるために睡眠が必要なのと同じことなのでしょう。
そうした情感を見事に言い当てた言葉が「山眠る」なのです。
お天気豆知識(2025年12月03日(水))


四季折々で、山は違った表情を私たちに見せてくれます。
それぞれの季節ごとに特徴的な山の様子を見事に言い当てたのが、中国の北宋時代の画家、郭煕(かくき)です。この画家は、春の山は「笑っている」ようで、夏の山は「汗をかいている」よう。秋の山は「化粧をしている」ようだし、冬の山は「眠っている」ようだ、とそれぞれ例えたのです。
実際には春山を「淡冶(たんや)にして笑うがごとし」といって、新芽が出て潤み始めた春の山は、まるで山そのものが笑みを浮かべているようだと表現しました。
同様に夏山は「蒼翠(そうすい)にして滴るがごとし」と言いました。これは樹木が生い茂った夏山は、しずくが滴って、汗をかいているようだという意味です。
次に秋山は「明浄(めいじょう)にして粧うがごとし」。清らかに澄みきった秋山が紅葉している様を化粧に例えたのでしょう。
最後に冬山については「惨淡(さんたん)にして眠るがごとし」として、わびしそうにたたずむ冬の山は寝ているようだと言ったのです。
四季それぞれの山を擬人化した表現なのですが、笑っている春と眠っている冬の対比が見事です。こうした表現は今ではそれぞれの季節の季語として、現代の俳句の世界でも利用されているのです。

