みなさんが寝静まった真夏の夜、たった一晩だけ幻想的な白い花を咲かせる「月下美人(げっかびじん)」という花があります。この花の開花時間は夜の数時間と短いため、身近にあったとしても花が咲いている姿を見ることはなかなかできません。
月下美人は中南米が原産で、クジャクサボテン属に所属するサボテンの一種です。
その昔、昭和天皇が台湾を訪問されたときに、この花の名を尋ねられたところ、隣にいた総督がとっさに「月下の美人」と答えたことから「月下美人」という名前が定着したというエピソードが残っています。
月下美人の花は夕暮れになると花びらを開きはじめ、あたりに強い香りを漂わせます。しかし、朝には花びらを閉じてしまい、しおれてしまいます。まさに美人薄命、そのはかなさこそが人を魅了してやまないのでしょう。
夏休みには月下美人の観賞会を行う植物園もあるようです。機会があれば、花を開く貴重な瞬間に立ち会ってみてはいかがでしょうか。
お天気豆知識(2025年07月05日(土))


植物の多くは、子孫を繁栄させるため、受粉を助ける昆虫や鳥が活動する昼間に合わせて花を咲かせます。しかし、なかには夕方から夜にかけて咲く花もあるのです。
日中は気温が高すぎたり、太陽の光が強すぎるため、花を咲かせるには適さない場合があります。また、昼間はいたるところで花が咲いているので、花粉の媒介をしてくれる虫の奪い合いになります。そのため、競争相手の少ない夜に花を咲かせて、夜に活動するガの仲間をたくさん呼び寄せて繁殖するものもいるのです。
代表的なものは、イエライシャンや月下美人、オオオニバスなどがあります。イエライシャンは東南アジア原産のつる植物で星型をした淡黄色の花をいくつも咲かせ、特に夜に甘い香りを放ちます。サボテンの一種である月下美人は強い香りとともに大ぶりの白い花を咲かせますが、花が咲くのは夜の数時間の間だけで朝にはしおれてしまいます。
そして、オオオニバスはハスに似た白い花を咲かせるスイレン科の花で、2、3夜にわたり、水面に浮いた大きな葉の間から香りを漂わせながら咲きます。
これらの花に共通していることは、とても強い香りを漂わせながら、明るい色の花を咲かせていることです。その理由はやはり夜に花を咲かせることにあります。暗がりの中でも虫たちに自分の存在をはっきり示すためで、昼間に咲く花よりも甘くて強い香りを発散させ、白や黄色の明るい花を咲かせて、ガの仲間を呼び寄せているのです。